「ねぇ…景吾って本当に俺の事好きなの?」 「はぁ?」 「何かもう、アンタに振り回されるの疲れたよ。…俺達、別れよっか」 この愛しくて憎らしい男の前で泣くつもりなんて全然なかったのに。 気が付いた時には、頬を熱いぐらいに感じる涙が通っていた。 景吾が何か言いかけたのも聞かないで、俺は走り出した。 溢れてくる涙を、拭うこともせずに。 >> TEAR'S MELODY 「ふ……ん…う…」 今夜と明日は、お誂え向きに、家には誰もいない。 親父と母さんは、遠縁の葬式に行き、菜々子さんは大学の友達と旅行に行った。 …一人っきりの空間。涙を流しても、理由を問われない自由。 「…景吾…」 別に嫌いになった訳じゃなかった。逆に、俺ばっかりが好き過ぎて、一緒に居るのが辛くなった。 本当なら、今夜は景吾がこの家に泊まるはずだったのに。 自分から別れを切り出したのだから、もうどうしようもない。 「…俺と別れて、もしかして清々してる?」 あれから数時間経って、一度もメールや電話のない携帯。 そんなに簡単に切り捨てられる存在だったのか。そう思うと、また涙が浮かぶ気がした。 「景吾……」 とてもじゃないが、眠れない。現在夜中の2時。 いつもの自分だったらとっくに眠っている時間帯だ。…今日は、眠いなんていう気持ちが微塵も起きない。 ただただ、悲しいとか寂しいという気持ちばかりが身体を支配しているようで。 リョーマはタオルを目に当て、膝を抱え込んだ。 …どれくらいの間、そうして居たのだろう。リョーマがふっと顔を上げると、窓に朝日が差し込んでいた。 「…もう、朝…?」 一晩中起きていた所為で、逆に目が冴えてしまっている。空腹感はない。 感覚があるとしたら、泣いてしまって赤く腫れた瞼が痛い、という事ぐらいだった。 ピンポーン 「…え、誰…」 リョーマは慌てて時計を見るが、まだ六時を過ぎたばかりだった。来客には早すぎる時間だ。 少し緊張して、身を固くした。 ピンポーン 「…誰だろう」 まだ重い身体を起こして、玄関へと向かった。そっと、外に誰が居るのか覗いてみた。 「…景吾ッ!」 リョーマは思わず身を引き、顔を強張らせた。何でここに居るのか、そんな考えが頭をぐるぐると回った。 『リョーマ…、開けてくれ』 「け、景吾…」 恐る恐る鍵を外し、戸を開けた。目の前には、眉を寄せている跡部の姿があった。 リョーマは心臓が潰されるような思いをした。…あの跡部が、泣いている。 「リョーマ…」 ただそう言って、リョーマの身体をしっかりと抱きしめた跡部。 困惑気な表情を浮かべながらも、リョーマはそれに応えた。 「…景吾…」 「話がしたい…ダメか?」 「いいよ、俺も一方的だったから…。俺の部屋、行こう」 頷いた跡部は、ただ静かにリョーマの後を歩いた。 こんな跡部を見たのは初めてだったので、リョーマ自身どうすればいいか困っていた。 部屋に入るとまた、ギュッと抱きしめられた。 「…何で、別れなきゃいけないんだ?」 「ッ…!それ、聞くのが遅いよ!俺は…一晩中、電話待ってたのに…」 「悪かった…。無様にそんな真似しても、お前は絶対俺の所へ戻って来ない気がしたんだ」 「だったら…何で来たの?」 「一晩中考えて、やっぱりお前がいない俺には戻れないって思ったからだな…」 リョーマを抱きしめる力を強くした跡部。 不思議と、心地良い気がした。 「…俺、いつも不安だった。あんたの周りには必ず女が居るし、いつか俺に飽きるんじゃないかって…」 「俺がその女どもと浮気をした時が一度でもあったか?」 「ない、けど…。でもあんたは優しいから、絶対無視とかしないし。いっつも俺以外の人が…側に居て…」 リョーマは声を震わせた。一晩中泣いていたというのに、まだ涙は出るらしい。 跡部の肩口を、温かい涙が濡らした。 「…いいか、よく聞けよ。俺はお前以外には興味ねぇんだ。お前だけが好きなんだ」 「俺…、女の子じゃないから、凄く成長するよ?背だって、景吾より高くなるかもしれないよ?」 「別にお前が小さいから好きになった訳じゃねぇよ」 俺が変態みたいじゃねぇか、と呟いた跡部に、リョーマは笑顔を浮かべた。 「俺、景吾と一緒に居ていいの?」 「当たり前だろ。嫌だって言われても離さねぇ。…っていうか、不安なら言え。『別れる』なんて心臓に悪いだろ…」 「うん…ごめんね。でも、景吾が来てくれたから良かった…俺、やっぱり景吾が好きだから」 跡部はその言葉を聞くと、リョーマの後頭部を抑え、深い口付けをした。 二度と離れようなんて思わせないような、艶美な笑顔を浮かべながら…。 第三弾は跡リョです〜!シリアスなんだか甘いんだか。 リョーマさんはすくすく成長すると思うんですよ。南次郎さんががっしりしてるから。 そんでもって、自分が成長する事をちょっと怖がってると最高vvv 女の子を見ては、いいなぁって思ってる乙女なリョーマさんが大好物です☆(笑) |